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労働者性の判断が必要な事例 | リンクパートナーズ法律事務所

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労働者性の判断が必要な事例

皆様、こんにちは。

赤坂、青山、渋谷近郊の弁護士葛巻瑞貴(かつらまき みずき)です。

私は、労働問題の相談も日常的に取り扱っておりますが(使用者側が多いです)、例えば、「予備校の講師を辞めさせる場合、労働法上の解雇権濫用法理が妥当するのかどうか。」などの相談が持ちかけられることがあります。

上記の相談事例において、予備校講師等は、雇用契約書を作成しているというケースばかりではなく、業務委託契約を締結しており、形式的に見ると、労働契約ではないことから、労働基準法等の規制が及ばないのではないかとも思われるところです。

 

1.労働者性の判断基準

しかし、契約の法性決定は、形式的に契約書の名称に拘束されるわけではなく、実質的に当事者間の権利義務関係や、契約内容を考慮して、どのような契約なのかということが判断されます。

したがって、業務委託契約書を作成しているからといって、労働契約ではないと強弁することはできず、当事者間の関係性や債務の内容等を吟味して、労働契約に該当するのではないか、労働者に該当するのではないか、ということが検討されるのです。

労働者性の判断基準として考慮される要素としては、一般的に以下の2つの基準に基づいて検討されます。

➀「使用させる=指揮監督下の労働」という労務提供の形態

②「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性(報酬が提供された労務に対応するものであるか否か)

という2つの基準によって検討・判断されることになります(上2つの基準を総称して「使用従属関係」と呼びます)。

そして、➀についてより具体的に検討する下位基準としては、

ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の事由があるか、

イ 業務遂行上の指揮監督があるか

ウ 勤務時間・勤務場所等の拘束性があるか

エ 代替性があるか(本人にかわって他の者が労務を提供することが認められているか、補助者を利用することが認められているか-指揮監督関係の補強要素)

といった、要素が挙げられます。

また、②については、

報酬が時間給として計算されているなど、労働者との差異がない、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、残業した場合には、通常の報酬とは別の手当が支給される等報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される、といった事情がある場合には、使用従属関係を補強することになります。

また、それ以外の事情としても、

ⅰ事業者性の有無

 イ 機械、器具の負担関係(高額な器具を自らの危険と計算で利用している場合には、労働者性を弱める事情です)

 ロ 報酬の額(他の正社員より著しく高額な報酬が支払われている場合には、労働者性を弱める事情となります)

 ハ その他の事情(独自の商号を利用していることなどは、労働者性を弱める事情となります)

ⅱ専属性の程度

 イ 制度上・経済上専属しているか(契約や事実上当該企業に従属している場合には労働者性を補強する事情になります)

 ロ 報酬に生活保障的要素があるか(報酬に固定給部分があり、その額も生計を維持しうる程度のものである場合、労働者性を補強する事情になります)

ⅲその他の事情

 イ 採用、委託等の選考過程が正規従業員の採用とほとんど同様であること

 ロ 報酬を給与所得として源泉徴収していること

 ハ 服務規律を適用していること

 ニ 退職金制度、福利厚生を適用している

等の事情は、労働者性を肯定する補強事由になります。

以上の要素を総合考慮して、労働者性が判断されることになります。

 

2.予備校講師の労働者性

よって、上記基準からすると、予備校講師が労働者に該当するか否かというのは、一概には決めることはできず、ケースバイケースであるということにならざるを得ません。

しかし、多くの予備校において、講義に対する指揮命令関係がある程度あるでしょうし、講義の時間や場所の裁量が講師側には認められないこともほとんどだと思われます。

また、報酬も賃金としての性質が強い場合も多いでしょう。

そうすると、予備校講師が労働者と判断される可能性は一定程度認められると考えて良いでしょう。

実際に、河合塾事件(最三小平成22・4.27)の1審・2審判決では、大要、非常勤講師の出講契約の性質を労働契約としています。

 

3.雇止め法理の類推適用について

では、仮に、予備校講師との契約が労働契約であるとすると、当該講師を辞めさせる場合、雇止めの法理が類推適用されるのでしょうか?

なお、予備校によっては、期間1年の業務委託契約を毎年更新しているケースも散見されるため、雇止めの法理が類推適用された場合、当該講師を解雇することは相当に困難となります。

この点に関して、上記河合塾事件の最高裁判決では、明確に判示しているわけではありませんが、他の裁判例においては、雇用継続の合理的期待が低いことを理由に、雇止め法理の類推適用に消極的な判断が多いです。

そのため、現在の裁判例の傾向としては、雇止めの法理の類推適用に慎重な姿勢が見受けられますが、ケースによっては、通常の雇止め事案と同視しうる事例も考えられますし、理論的に言っても、労働者性を認めるが、雇止めの法理を類推適用しないというのも若干腑に落ちない面もあり、今後の判例の動向には注視する必要があるでしょう。

使用者側としては、いきなり、契約関係を終了させてしまうと、ほぼ間違いなく訴訟に発展すると思われますし、費用対効果の面で賢明な判断ではない可能性もありますので、デリケートな対応が求められる案件であると言えます。

場合によっては、少しずつ、当該講師が担当しているコマ数を減少させるなどの措置も考えられるでしょう。

 

以上で、労働者性の判断が必要な事案(予備校講師について)の紹介と解説でした。

労働問題についてお困りでしたら、弁護士葛巻にお任せください。

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